プロ野球の試合を見ていると、選手の目の下に黒い線やシールが付いていることがあります。デーゲームで見かけることが多いこの黒いマークの正体は、「アイブラック」と呼ばれるスポーツ用品です。太陽光の反射によるまぶしさを抑える目的で使われますが、実際に視界は改善するのでしょうか。それとも、メジャーリーガーのように見せるためのファッションなのでしょうか。
実は、アイブラックには視覚への効果を調べた医学研究がある一方、プロ野球選手自身が「おまじない」のようなものだと語った事例もあります。日本人選手の使用例、パ・リーグTVが取り上げた個性的なデザイン、歴史的な経緯、MLBにおける顔のペイントやメッセージの扱いまで、2026年に知っておきたいポイントを整理します。
【正体を解説】プロ野球選手が目の下を黒くする理由は「アイブラック」

プロ野球選手の目の下にある黒い線は、英語で「Eye Black」と呼ばれるアイブラックです。野球だけでなく、アメリカンフットボールなど、強い光の影響を受けるスポーツでも使われています。
アイブラックは、単なる顔の模様ではありません。基本的な目的は、日差しや照明によるまぶしさを軽減し、ボールを見やすくすることです。特に、外野手が高く上がったフライを追う場面では、強い日差しが視界に入り、打球の位置や輪郭を捉えにくくなることがあります。
アイブラックには、大きく分けて次の2種類があります。
- シールタイプ:目の下に専用の黒いシールを貼る方式。形が整いやすく、試合中に汗を拭くことを考慮して選ぶ選手もいる。
- 塗るタイプ:専用のグリースやスティック状の製品を頬に塗る方式。線の太さや形を自由に調整しやすい。
スポーツメディアのBASEBALL KINGは、アイブラックの目的を太陽光の反射によるまぶしさの軽減と説明しています。同記事では、久保田運動具店の関係者への取材を通じて、米国での使用の経緯や、塗るタイプと貼るタイプの違いも紹介しています。
日本のプロ野球ではシールタイプを目にすることもありますが、選手によって使う製品や形状は異なります。黒い線が目の下にあるからといって、全員が同じ商品を使っているわけではありません。
【効果の真相】アイブラックは本当にまぶしさを抑える?医学研究から検証
アイブラックの仕組みは、顔の表面で反射する光に着目したものです。頬骨の周辺は顔の中でも前方に張り出しており、太陽光が当たると、その一部が目の方向へ反射します。目の下を黒くすることで、皮膚表面からの反射を抑え、余計な光が視界に入るのを減らそうという考え方です。
ただし、アイブラックはサングラスのように目に入る光そのものを遮る道具ではありません。直射日光を完全に防ぐものでもなく、効果があるとしても、主に顔からの反射光を抑えるという限定的な仕組みです。
では、アイブラックには科学的な裏付けがあるのでしょうか。この疑問を検討するうえで参考になるのが、2003年7月に医学誌「Archives of Ophthalmology」に掲載された研究です。研究者は、日光の下で46人を対象に、グリースタイプ、シールタイプ、比較対照としてのワセリンを用い、コントラスト感度を調べました。
研究結果では、両目で測定した場合、グリースタイプは対照条件と比べてコントラスト感度の改善が認められました。一方、シールタイプでは、対照条件と比べた明確な改善は確認されませんでした。研究は、塗るタイプのアイブラックには日光下でのまぶしさを軽減する効果がある可能性を示しています。
ただし、この研究には注意点もあります。対象者は46人で、プロ野球選手の実際のプレーを評価した試験ではありません。ボールの捕球率や打率、三振率が改善することまで証明したわけでもありません。また、研究結果から、すべての製品や使用条件で同じ効果が得られると断定することもできません。
つまり、「アイブラックはまったく意味がない」という説明も、「付ければ必ずボールが見やすくなる」という説明も正確ではありません。医学研究では塗るタイプに一定の効果が示されましたが、製品の種類や使用環境によって結果が異なる可能性があります。
なお、視覚のコントラスト感度と視力は別の指標です。コントラスト感度とは、背景と対象物の明暗差を見分ける能力のこと。野球では、明るい空を背景にしたボールや、光の影響で輪郭が見えにくくなった打球を認識する場面で関係します。
【歴史と日本人選手】アイブラックはいつから使われている?使用例を年表で整理
アイブラックの起源は、米国のアメリカンフットボールにさかのぼるとされています。当時は焼いたコルクなどから得た黒い炭を頬に塗っていたと伝えられています。その後、野球にも使用が広がりました。
医学誌「Archives of Ophthalmology」の2003年の論文では、アイブラックの歴史をたどる資料として、1942年に撮影されたアメリカンフットボール選手アンディ・ファーカスの写真が紹介されています。一方、使用開始の正確な年や、最初に考案した人物については、はっきりと確定しているわけではありません。
BASEBALL KINGや野球専門メディアのFull-Countなどでは、1940年代ごろのフットボールでの使用から、1960年代ごろのメジャーリーグでの普及、さらに日本のプロ野球への浸透という流れが紹介されています。
日本のプロ野球での使用例としては、広島時代の丸佳浩選手や、福岡ソフトバンクホークスの選手たちが報道で取り上げられてきました。以下は、報道・映像で確認できる歴史的な経緯と使用例をまとめたものです。
| 時期 | 出来事・選手 | ポイント |
|---|---|---|
| 1940年代以前から | 米国のアメリカンフットボール | 焼いたコルクの炭などを頬に塗る方法が、アイブラックの起源として伝えられている。 |
| 1942年 | アンディ・ファーカスの写真 | 医学誌の論文で、アイブラック使用の初期の写真資料として紹介されている。 |
| 1960年代ごろ | メジャーリーグでの普及 | 野球選手の間でも使用が一般的になっていったと、野球専門メディアなどが解説している。 |
| 1980年代後半〜1990年代ごろ | 日本のプロ野球 | 国内でも選手の使用が見られるようになった。導入の正確な年を一つに特定するのは難しい。 |
| 2018年 | 丸佳浩選手 | BASEBALL KINGが、目の下の黒いアイブラックについて取り上げた。 |
| 2020年 | 中村晃選手・牧原大成選手 | RKB毎日放送が使用理由やシールタイプの使い勝手について選手本人に取材した。 |
| 2021年 | 島内宏明選手・栗原陵矢選手など | 個性的なデザインが話題になり、パ・リーグTVや野球メディアが取り上げた。 |
この年表で重要なのは、アイブラックの普及時期と、現在の選手が実際に着用しているかどうかは別の問題だという点です。上記は各時期に紹介された歴史的資料や使用例であり、2026年シーズンの全選手の着用状況を示す一覧ではありません。
日本人選手の使用については、丸佳浩選手のほか、福岡ソフトバンクホークスの中村晃選手、牧原大成選手が取材記事で取り上げられています。また、楽天の島内宏明選手やソフトバンクの栗原陵矢選手は、2021年に個性的なアイブラックのデザインが話題になりました。
こうした事例を見ると、アイブラックは海外から伝わった実用的な道具であると同時に、日本のプロ野球でも独自の使われ方や見た目の個性が生まれてきたアイテムだと分かります。
【気合・ファッションの実態】ドーム球場でも使うのはなぜ?
アイブラックの使用理由を考える際、見逃せないのが選手本人の感覚です。太陽光の反射を抑えることが本来の目的ですが、すべての選手が同じ程度の効果を感じているわけではありません。
2020年12月のRKB毎日放送の記事では、福岡ソフトバンクホークスの中村晃選手がアイブラックについて取材を受けています。中村選手は「おまじないみたいなもんですよ(笑)」と語り、メジャーリーガーへの憧れから、格好よさを理由に使う選手もいるという趣旨の説明をしています。
同じ取材で、牧原大成選手は、汗で落ちるのを避けるためにシールタイプを使っていると説明しました。そのうえで、着用する理由について、メジャーリーガーのようで格好がよいという趣旨の話もしています。
この証言から分かるのは、アイブラックの意味が選手によって異なるということです。ある選手にとっては日差し対策であり、別の選手にとっては試合前に気持ちを切り替えるための習慣や、憧れの選手に近づくためのスタイルなのです。
ドーム球場でも着用する選手がいるのは、こうした理由と無関係ではありません。日差しが直接入らない環境では、太陽光対策としての必要性は小さくなる場合があります。それでも、選手が自分のルーティンや好みを優先して使うことはあり得ます。
また、パ・リーグTVは2021年6月、「自由な感じで俺流コーデ『目の下の黒いヤツ(アイブラック)』まとめ」という動画を公開しました。塗るタイプと貼るタイプだけでなく、縦や横、くっきりした線やぼかした線など、選手ごとの違いに着目した内容です。
同時期には、楽天の島内宏明選手が目の下に十字のマークを付けたり、ソフトバンクの栗原陵矢選手が垂れたようなデザインを施したりした姿が話題になりました。こうした例は、アイブラックが実用面だけではなく、選手の個性や遊び心を表すものとしても受け止められていることを示しています。
ただし、見た目が個性的だからといって、必ずしも本人が相手を威嚇しようとしているとは限りません。気合を入れる、気分を高める、好きな選手のスタイルを取り入れるなど、理由は一つではないのです。
【MLBの規則と罰金】顔全体を黒く塗ると処分されるのか?
アイブラックについては、「顔全体を黒く塗るとメジャーリーグで高額な罰金を科される」という説明が見られます。しかし、顔全体を黒く塗る行為だけで自動的に高額罰金となる、という単純なルールとして理解するのは適切ではありません。
MLBにはユニフォームやプレー用具への表示に関する規定があり、メッセージの内容や表示方法が問題になる場合があります。投手の身体にある、打者や審判の注意をそらす可能性のあるマーキングについても、規定上の扱いがあります。したがって、顔のペイントを考える際には、塗る面積だけでなく、何を表示しているか、どの規定が適用されるかを分けて考える必要があります。
実際の事例として知られるのが、2012年のユネル・エスコバー選手の問題です。当時トロント・ブルージェイズに所属していたエスコバー選手は、アイブラックに同性愛者への侮辱的な表現を記し、球団から3試合の出場停止処分を受けました。球団が公表した処分理由は、試合中に不適切なメッセージを表示したことです。
この事例は、アイブラックに文字やメッセージを加えることが、単なるファッションの範囲を超えて問題になる場合があることを示しています。一方、顔全体を黒く塗っただけで同じ処分になると証明する事例ではありません。
また、MLBと高校野球などのアマチュア競技では、用具の規則が同一とは限りません。例えば米国の全米州立高校協会(NFHS)の野球規則では、アイシェードについて、文字や数字、ロゴなどを入れず、目の幅を超えたり頬骨より下に伸ばしたりしないことが定められています。これは高校野球の規則であり、そのままMLBのルールとして扱うことはできません。
日本のプロ野球でアイブラックを使用する場合も、所属リーグや大会、チームの用具運用を確認することが基本です。特に少年野球や高校野球では、プロ選手が使用しているからといって、同じ形状や方法がそのまま認められるとは限りません。
【プロの結論】アイブラックは実用品か、それともファッションか?
アイブラックを正しく理解するには、科学的な効果、選手本人の感覚、競技上の規則を分けて考えることが大切です。
科学的な面では、2003年の研究でグリースタイプに一定のコントラスト感度の改善が確認されました。しかし、シールタイプでは同じ結果が得られず、プロの試合で打球の捕球率や打撃成績を向上させることまで証明されていません。効果を過大評価することはできないものの、すべてを気休めと断定する根拠もありません。
実用性を重視するなら、日差しが強い屋外のデーゲームで、頬からの反射光が気になるかどうかが一つの判断基準になります。製品を選ぶ際は、塗るタイプかシールタイプか、汗で落ちにくいか、肌に合うか、競技規則に適合しているかを確認するとよいでしょう。
一方、見た目や気合を重視する選手にとっては、アイブラックは試合前のルーティンや自己表現の一部にもなります。中村晃選手や牧原大成選手の取材事例が示すように、実際の効果を強く感じていなくても、憧れや好みを理由に使うことがあります。
そして、メジャーリーグの規則については、「顔全体を塗れば必ず高額罰金」という説明をそのまま信じるのではなく、実際の規則や処分事例を確認が必要です。アイブラックに限らず、スポーツ用品の使用ルールは、競技レベルや大会ごとに異なる場合があります。
【プロ野球選手顔に黒】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:プロ野球選手が目の下に黒い線を付けるのはなぜですか?
A1:アイブラックと呼ばれる道具で、頬から目に入る反射光を抑え、日差しによるまぶしさを軽減することが主な目的です。選手によっては、気合を入れるための習慣やファッションとして使っています。
Q2:アイブラックは本当に効果がありますか?意味がないという説は本当ですか?
A2:2003年の医学研究では、塗るグリースタイプにコントラスト感度の改善が認められましたが、シールタイプでは対照条件と比べた明確な改善は確認されませんでした。すべての製品に同じ効果があるわけではなく、効果の感じ方にも個人差があると考えられます。
Q3:アイブラックを顔全体に塗ると、メジャーリーグでは罰金になりますか?
A3:顔全体を黒く塗るだけで一律に高額罰金となる、という説明には注意が必要です。MLBではユニフォームや用具の表示に関する規定があり、侮辱的なメッセージなどが処分につながった事例もあります。適用される規則と行為の内容を区別して理解が必要です。
まとめ:アイブラックの効果・歴史・使い方を正しく理解する
プロ野球選手の顔にある黒い線の正体は、アイブラックです。太陽光の反射によるまぶしさを抑えるために使われ、米国のアメリカンフットボールから野球へと広まったとされています。日本でも丸佳浩選手や福岡ソフトバンクホークスの選手たちの使用例が報じられ、パ・リーグTVなどでは個性的なデザインも取り上げられてきました。
科学的な研究では、塗るタイプに一定の効果が示される一方、シールタイプについては明確な改善が確認されていません。加えて、選手の証言からは、アイブラックが気合や憧れ、ファッションの意味も持っていることが分かります。
2026年にプロ野球を観戦する際は、選手の目の下の黒い線を単なる飾りと決めつけず、実用的な道具としての役割と、選手ごとのスタイルの両方に注目してみてください。黒い線の形や太さ、貼るタイプと塗るタイプの違いを見比べると、プレー以外の細かな個性も楽しめます。